分室訴訟について上告しておりましたが、昨日、最高裁判所から上告を棄却するとの決定が送付されました。残念ながら敗訴が確定したということです。
高裁判決の際にも書きましたが、大阪高裁は、分室を、議会の議決を経て条例で設置しなければならない「公の施設」に該当すると判断しながら、市が要綱で運用すれば「公の施設該当性が否定される」としたのです。
こういうことが許されれば、行政は、議会で条例の承認を得なくても、要綱さえ作れば、公の施設を設置できるということになってしまいます。こんな地方自治法を踏みにじる滅茶苦茶な話はありません。
最高裁判所に、良識ある判断を求めたのですが・・・本当に残念です。行政の暴走に、司法がお墨付きを与える結果になってしまいました。
こういうやり方が、「高槻方式」として、他の自治体に真似されないか、大変心配です。
以下は今回最高裁に提出した上告理由書です。議員インターンで来てくれた法学部の大学生達にも手伝ってもらい作成しました。
平成23年(行サ)第45号 損害賠償請求上告提起事件
(原審 大阪高等裁判所 平成22年(行コ)第145号)
上 告 人 北岡 隆浩
被上告人 高槻市長
上 告 理 由 書
平成23年9月6日
最高裁判所 御中
上告人 北 岡 隆 浩
第1 本件上告の意義
地方自治法244条の2は、「普通地方公共団体は・・・公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。」と規定する。本件において問題とする「分室」(本件分室)につき、原審は、「条例により設置すべき公の施設に該当する」(原判決5頁11乃至12行目)と認定しながらも、これを条例で設置せずとも、地方自治法238条の4第7項に規定する行政財産の使用許可で足りるというのである(原判決7頁下から5行目乃至8頁3行目)。
無論、条例の制定は、議会の議決を得てされるものである一方、行政財産の使用許可は、首長の裁量の範囲で行えるものである。当然に、前者が重いのであり、公の施設該当性が認められるのであれば、条例で設置されていない本件分室については、違法と認定すべきであったにもかかわらず、原審は適法としてしまった。
こうしたことがまかり通れば、議会の議決という関門を経て条例を制定せずとも、行政の裁量(行政財産の使用許可)により、実質的に「公の施設」が設置できてしまうことになり、地方自治法244条の2の趣旨が没却されてしまう。そればかりか、全国の地方公共団体に議会軽視・行政暴走の悪影響が及ぶおそれがある。
このようなことを防ぐためにも、最高裁において適切な判断をされたい。
第2 事案の概要と判決の要旨
1 事案の概要
本件は、「労働センター」と「労働福祉課『分室』」(以下「本件分室」という。)という2つのほぼ目的を同じくする施設につき、前者を条例(甲3)で設置する一方、後者を単に要綱(甲2)で規定するのみであり、前者を有料で市内の一般の労働団体に、後者を無料で市長の支持団体である連合系の労働組合に、それぞれ被上告人が使用させているのであるが(甲7、21、22、23、24、25、26、第一審原告準備書面4の5頁)、後者の要綱による設置については、上記のとおり条例で設置されていないから違法であり、市に使用料相当額の損害を与えているというものである。
平成19年11月27日にテレビ報道がされたとおり(甲13−1及び2)、本件分室は、従前、連合高槻が不可解な形で占有しており、これが露見したため、要綱で本件分室が設置された経緯がある。なお、甲17のとおり、大阪高裁は、連合高槻の占有を承認していた市長の行為を違法と認定し、その判決が確定している。
原判決も認定するとおり、本件分室は、その使用実態からすれば、明らかに「公の施設」(地方自治法244条1項、244条の2第1項)に該当するのであり、条例で設置しなければならないのであるが、被上告人は、単に要綱で規定するのみなのである。
表
上記の表のとおり、条例設置の「公の施設」である「労働センター」の利用件数よりも、単に要綱でのみ設置された本件分室の使用件数のほうが、圧倒的に多くなってしまっている。
2 原判決の要旨
原審は、本件分室につき、本件分室が設置された平成20年4月1日の前後において、「労働団体等による利用が大部分を占めるという本件分室の使用実態には大きな変化がなく、かつ、本件分室が本件要綱に定められたとおり、労働福祉課による会議その他の公用を原則として使用されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない」等とし、公の施設該当性を認めながらも、「本件要綱が規定どおり運用されている限り」、本件分室の公の施設該当性が否定されるとする(原判決6頁下から4行目乃至7頁9行目)。
その他、少なくとも事務連絡レベルでは本件分室の仕様に関する周知が図られようとしたとか、行政財産の使用許可(地方自治法238条の4第7項)ができること等を理由として、地方自治法244条3項や244条の2第1項には違反しないとした。
3 憲法の解釈の誤り等
しかし、原判決には、憲法の解釈の誤り及び民事訴訟法312条2項6号の理由不備・理由齟齬の違法があるので、破棄されるべきである。
第3 上告理由
1 理由不備
原審は、上記のとおり、「本件要綱が規定どおり運用されている限り」、本件分室の公の施設該当性が否定されるとするが、本件要綱をよく読んでいないか、悪意をもって歪んだ判断をしたとしか考えられない。
本件要綱(甲2)は、その使用目的について、下記のとおりに定めている。
記
(使用目的)
第3条 分室は、労働福祉課が会議その他の公用のために使用するほか、市長が必要と認めるときは、他の行政機関が会議その他公用のために使用することができる。
2 市長は、前項に定めるもののほか、市内の労働者及び労働団体(以下「労働者等」という。)に次の各号に掲げる目的のために使用させることができる。
(1)労働者等の文化教養の向上のための学習活動及び文化活動
(2)労働者等の福利厚生活動
(3)労働者等の権利義務意識向上のための活動
(4)その他市長が適当と認めるもの
「分室」とは本来、市役所庁舎とは分かれてはいるものの、市役所本体と同様に、市職員が事務を行う執務スペースであるが、本件分室は、原判決7頁の最初の段落にもあるとおり、その使用実態は「住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設」すなわち「公の施設」であった。この「公の施設」としての使用は、上記の本件要綱第3条2項の規定に基づく運用であるといわざるをえない。
しかし、原判決は、同項の規定をきちんと精読していないために(あるいは悪意があるために)、下記のとおりに述べている。
記
しかしながら、本件要綱が規定どおり運用されている限り、本件分室の公の施設該当性が否定されることは前述のとおりであり、その使用実態から公の施設該当性が肯定されたのは、あくまでも原則と例外が逆転して目的外許可がなされたという運用の結果でしかない。そして、本件要綱には、このような運用を許容する条項はないことから、本件要綱の制定が目的外使用許可に直結するとはいえず、その他本件要綱の制定が前記の使用実態を容易にした事情も窺えないことから、本件要綱の制定行為自体が不法行為に該当すると判断することは困難である。
原審は、「・・・本件要綱が規定どおり運用されている限り、本件分室の公の施設該当性が否定されることは前述のとおり」とするが、前述とはどこを指すのか意味不明である。また、「本件要綱が規定どおり運用されている限り」というが、本件要綱の規定の存在が、条例制定をしなくてよい理由にはならないはずである。
「・・・その使用実態から公の施設該当性が肯定されたのは、あくまでも原則と例外が逆転して目的外許可がなされたという運用の結果でしかない。」というのであるが、これも意味不明である。何を原則や例外というのか分からないが、例外を適法とする根拠はまったく示されていない。
「・・・本件要綱には、このような運用を許容する条項はないことから、本件要綱の制定が目的外使用許可に直結するとはいえず」というのであるが、上記の本件要綱3条を読めば、1項で分室本来の公用による使用、2項で行政財産の目的外使用許可について定めており、この2項の規定や4条(使用申請)及び5条(使用許可)の諸規定により、むしろ原判決の判断とは逆に「目的外使用許可に直結する」ことは明らかである。
「・・・その他本件要綱の制定が前記の使用実態を容易にした事情も窺えない」とするが、上記3条2項の規定からすれば明白なとおり、本件要綱の制定が、「労働センター」同様の使用を容易にしたのである。
本件要綱は部長(都市産業部長)が制定し、これに基づき担当課長(労働福祉課長)が使用許可をしていたのであるが、「労働センター」が別にあるのだから、本件要綱がなければ、本件分室につき、みだりに行政財産の目的外使用をせず、「労働センター」が使用されていたことは明らかであろう。
上記原審判断部分は、本件訴訟において重要な部分であり、その理由に明らかな不備があるのであるから、破棄を免れえないと思量する。
2 憲法14条1項(平等原則)違反
憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とするが、被上告人が、実質的に、市長・奥本の支持団体に対してのみ、無料で本件分室の使用を許可していたことは、明らかに政治的差別である。本件分室の存在を知らされなかった他の団体は、有料で労働センターを使用していたのである。
これを容認する原判決は、憲法14条に反する。
3 結語
以上、原判決は、憲法解釈の誤り及び理由不備があり、破棄されるべきである。
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