監査結果では、「生活保護の障害者加算の認定について、その判断基準は厚生労働省の基準によるべきところ、福祉事務所長は83件について、障害者加算につき認定すべき級を誤って認定していた。」と、福祉事務所長の責任を認めています。
しかし、所長は生活保護法63条の規定に基づく返還決定をし、被保護者に対し返還に向けた取組を行っていて、「福祉事務所として適切な対応」を執っていることが認められるから、職員等に対して損害賠償請求を求める必要はないと、監査委員は結論付けました。
けれども、「・・・総件数83件のうち返還の通知書を交付したもの78件で、4011万9675円の返還を求めた。残りの5件については、対象者が死亡しているケース、病状が悪化して面談できないケース等で対応に苦慮しているとのことである。そして、既に返還納付があったのは、6件で、207万3145円であった。」とされており、少なくとも死亡しているケースについては返還がされえず、市に損害が発生していると考えられます。
また、実際に返還納付があったのは、わずかに6件であり、それ以外の77件については、返還されるのかどうか、はっきりしません。
生活保護を受ける世帯には、「収入」+「生活保護費」=「最低生活費」となるように、生活保護費が支給されることになっています。市がミスをして、勝手に誤って支給したにもかかわらず、「最低生活費」で暮らす人に対して、金を返せということができるのでしょうか?
生活保護法58条には「被保護者は、既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押えられることがない。」との規定があります。どんなに借金があっても、被保護者には保護費の全額を渡さなければならないということです。高槻市も、保護費から返還金を差し引くのではなく、保護費を全額支給してから、返納をしてもらっています。ということは、返納は、被保護者の義務ではなく、任意なのではないのでしょうか?
福祉事務所長は、生活保護法63条の規定に基づく返還決定をしたというのですが、63条は・・・
(費用返還義務)
第六十三条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
・・・というものであり、「急迫の場合等」(差し迫った事情があるとき)についての規定であって、市が誤って保護費を過払いした場合は、この規定には当てはまらないと思われます。
高槻市の「生活保護のしおり」によると、63条に基づいて保護費の返還が求められる場合として、次の例が挙げられています。


1.不動産(土地・家屋)などが売却できたとき。
2.生命保険などの保険金を受け取ったとき。
3.各種年金・手当を遡って受け取ったとき。
4.交通事故などの示談金・補償金などを受け取ったとき。
つまり、「持家に住んでいるけれどもお金が底をついた。家はすぐ売れない。でもお金がなくて飢え死にしそうだ。」といような差し迫った事情があって、保護費を受け取ったけれども、後日家が売れたという場合は、お金を返してもらいますよ、というように、保護費をもらった後に何らかのお金を得た場合の規定であって、市が勝手にミスをして保護費を払い過ぎた場合に適用できるような規定だとは考えられません。
堺市の生活保護に関する包括外部監査の111ページには次の記述があります。
(2)出納事務又は経理事務上の誤りにより生じた保護費の過払いによる返納金
注;この場合には、・・・法第63条による返還は適用されない。
堺市の包括外部監査人は、市がミスした場合は、63条は適用されないと判断しているということです。
したがって、63条に基づいて返還を求めるという、高槻市の福祉事務所長の決定と、監査委員の判断は、誤っていると私は考えます。
誤った法解釈に基づく返還決定というのは有効なのでしょうか?
市のミスで過払いされた生活保護費について返還命令を決定したのは違法だとして、77歳の女性が訴訟を起こしたケースが福岡県大野城市でありました。女性側は「過払いの原因は市にある。支給された保護費は生活費に使い、これ以上生活を切りつめて返還する余裕はない」と主張しています。高槻市でも同じように、過払いされた保護費を生活費に使い切ったケースがあるかもしれません。
こうした間違いが数件であれば、うっかりミスといえるかもしれません。しかし、83件もの誤りを犯し、約4200万円も、払う必要のない金員を支出したのですから、単なる過失では済まされないと思います。
また、このお金がすべて返ってくるのであれば、間違いも帳消しになるのかもしれませんが、多くのケースで返ってくる見込みは乏しそうですし、返還決定の法的根拠も誤っているとなれば(誤った法的根拠しか示せないということは、返還の法的根拠が実はないのかもしれません)、被保護者の方を騙すようなものかもしれませんし、大野城市の女性のように、返還決定が違法であるとして提訴する方も出てくるかもしれません。
住民訴訟を起こすかどうかについては、もう少し検討したいと思います。
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以下は住民監査請求の監査結果です。








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