「鵜殿のヨシ原がなくなれば、日本の雅楽は崩壊する」・・・今日、高槻市民会館で行われた「新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会」の第一回検討会での「鵜殿のヨシ原保存会」の会長の言葉です。この言葉が私には一番印象に残りました。
高槻市の鵜殿は、雅楽の篳篥(ひちりき)という楽器のリード部分に使われる、良質のヨシが採れる唯一の群生地。「篳篥こけたら皆こけた」といわれるくらい、雅楽の主旋律を担う重要な楽器ですが、平安時代から、鵜殿のヨシで作られてきたとのこと。
新名神が建設されることで、鵜殿のヨシ原に悪影響が出れば、千数百年の伝統を有し、世界で最も古い音楽文化として貴重な歴史的価値をもち、国の重要無形文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産保護条約の「人類の無形文化遺産の代表的な一覧」にも登録されている雅楽が、本当に崩壊してしまう可能性があります。
さて、「新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会」とは・・・
★【産経新聞】西日本高速が「ヨシ原保存」の検討会 新名神の影響協議、1月に開催
西日本高速道路会社は26日、淀川流域にあるヨシの自生地帯「鵜殿ヨシ原」(大阪府高槻市)の環境保全に向けた専門家による検討会を来年1月10日に開催すると発表した。
(中略)平成35年度までの全線開通を目指す新名神高速道路がまたぐことによる生育への影響について協議し、対策を検討する。
・・・というもので、西日本高速道路会社(NEXCO西日本=旧道路公団)が主催する検討会で、専門家が委員、関係者がオブザーバーとして参加します。この検討会の規約では・・・
(目的)
第2条 検討会は、良質なヨシ生育環境の保全と新名神高速道路事業の両立を図るために、専門家等から必要な調査、対策について指導、助言を得ることを目的とする。
・・・とされています。「両立を図る」とあるとおり、新名神の建設(高槻〜八幡間)が前提です。
しかし、この新名神の建設には疑問を覚えます。道路関係四公団民営化推進委員会の委員であった猪瀬直樹東京都知事は、次のように指摘しています。
★【猪瀬直樹の「眼からウロコ」】「新名神」凍結解除の根拠の情報操作を見破る
データの検証もせずに建設再開を決めた判断は「無効」だ
2012年07月10日
(中略)国交省は4月20日、新名神高速道路の凍結区間(大津JCT〜城陽JCTの25キロと八幡JCT〜高槻JCTの10キロ、あわせて35キロ)について、建設再開を決めた(こちらの図を参照)。これは名神高速、京滋バイパス(第二名神)につづく“第三名神”とでも呼べる代物である。6月4日に退任した前田武志国土交通大臣が、駆け込み的に判断を下したものだ。
(中略)
このように今回のデータを精査すると、第二京阪開通の効果によって「大幅に渋滞回数が増加」しているという事実はない。新名神高速道路の凍結を解除する根拠は失われたと言える。
ところが国交省はデータを記載した資料に次の一文を書き加えた。
「第二京阪開通後、名神・京滋BPの渋滞は、区間によっては減少しているものの、依然として残存している状況」
当初は「大幅に渋滞回数が増加」ということを新名神高速道路の凍結解除の根拠としていたのに、今回のデータでその根拠が崩れると、「残存している状況」ということを言い出したのだ。しかし、渋滞がゼロの高速道路などありえない。(後略)
上記の区間は、平成15年12月(当時は小泉内閣)に、政府・与党の申し合わせにより「抜本的見直し区間」に設定され、平成18年2月に国幹会議で「当面着工しない区間」に位置付けられたのです。
ところが、民主党政権で凍結が解除され、建設が再開されることになったのです。
図のとおり、新名神の高槻〜八幡間の少し北側には、京滋バイパスが通っています。猪瀬知事が指摘するように渋滞の増加がないのであれば、何故建設する必要があるのか。無駄な事業ではないのでしょうか。
この区間に新名神さえ建設しなければ、鵜殿のヨシ原への影響も考えずにすんだのに。
「鵜殿のヨシ原保存会」の会長によると、昭和40年代の淀川本線の開発とダム建設の影響で、鵜殿のヨシが減り、質が落ちたとのこと。国土交通省のせいだと恨み節をおっしゃられていました(現在、国土交通省は、鵜殿のヨシ原は生態的にも重要だとして、再生事業に取り組んでくれています)。今回もまた、新名神の建設再開を決定した国土交通省のせいでこのようなことに・・・
民主党から自公政権に替わりましたので、ぜひ新名神の再凍結を検討してほしいですね。
次回の検討会ですが、来年度、つまり4月以降の開催になるとのこと。検討会の検討期間は10年程度。検討会を年2回開催するほか、ワーキンググループ(WG)を年4回ほど開くそうです。今回の第1回の検討会では、植物に関するWGが設置されることになりました。
NEXCO西日本の説明によると、枚方市の部分については、住宅地の下にトンネルを通すとのこと。オブザーバーの宮内庁の方が、鵜殿の地下をトンネルで通れないのかと質問したのですが、現在の設計でも高槻市の山の部分から約60mの高低差があり、仮にトンネルにすると、今度は新幹線の基礎などの下もくぐらなければならないので無理だというような回答でした。
ヨシの育成環境はかなり繊細のようですし、また害虫の発生を予防するために「ヨシ原焼き」が必要とのことで(雨の時は焼かないそうですが、その時のヨシと、焼いた後のヨシの現物をもってこられ、違いを強調されていました)、それらに関する影響をいろいろと検討することが今後の課題のようです。
民主党政権の悪影響がこういうところに出てくるとは思いませんでした。
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以下は検討会の会場に展示されていたものです。
■新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会 設立趣旨
新名神高速道路は、日本の国土軸を形成し、今後ますます期待される国際競争力の強化、さらなる社会経済活動の活発化への基盤となる路線である。
一方、新名神高速道路が交差する鵜殿ヨシ原は、多様な生物の生育生息環境であるとともに、雅楽で使用される良質なヨシの生育地であり、自然環境一歴史・文化的にも極めて重要な場所である。
このような認識の上、弊社では、「鵜殿ヨシ原の環境保全に関する基本的な考え方」として、
・ヨシ原に極力影響を及ぼさないよう万全な対策を講じる
・対策検討にあたっては、専門家や関係者のご意見を十分伺う
・ヨシ原焼きが従来通り継続的に実施できるよう関係機関と調整し、 対策を検討する
・良質なヨシ生育環境の保全と事業の両立に向け全力で取り組む
以上を策定したところである。
この基本的な考え方を踏まえ、新名神高速道路の整備にあたって、良質なヨシ生育環境の保全との両立に向け、専門家から必要な調査、対策について指導、助言を得るため「新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会を設置するものである。
平成25年1月10日
西日本高速道路株式会社関西支社
■新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会 規約(案)
(名称)
第1条 本検討会は、「新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会」(以下、「検討会」という。)と称する。
(目的)
第2条 検討会は、良質なヨシ生育環境の保全と新名神高速道路事業の両立を図るために、専門家等から必要な調査、対策について指導、助言を得ることを目的とする。
(検討会の内容)
第3条 検討会は、第2条の目的を達するため、次の事項の検討を行うものとする。
1)ヨシの生育等に関する現状調査
2)ヨシ原焼き・ヨシ刈りに関する現状の把握
3)保全対策の検討
4)その他関連する事項
(構成)
第4条 検討会は、委員及びオブザーバー(以下「構成員」という。)をもって構成し、その定義は以下のとおりとする。
1)委員 … 検討会の目的を遂行するための専門的知見を有し、検討内容について審議(指導、助言)を行う者
2)オブザーバー … 審議に際し、有益な情報、意見を有する者
2.検討会の構成員は別表による。
3.座長は、委員の互選により選任され、会務を統括するとともに、検討会の開催にあたって委員を招集する。
4.座長に事故があるときは、座長が指名する委員が職務を代行する。
5.座長は、検討会の目的を遂行するために必要と認めた場合には、検討会に構成員以外の出席者を求めることができる。
6.検討会は、委員総数の過半数をもって成立するものとする。なお、委員の代理出席は認めないものとする。
7.検討会には、第3条の内容について専門的に検討するためのワーキンググループ(以下「WG」という。)を設置することができる。なお、WGの構成員は検討会にて決定するものとする。
(情報公開)
第5条 検討会は原則公開とし、検討会資料、議事概要を事務局より公表する。その他一般傍聴や公表方法は別途定める。但し、検討会資料、議事概要の中の動植物の重要な種に係わる情報及び個人情報については非公開とする。
(事務局)
第6条 検討会の事務局は、西日本高速道路株式会社関西支社建設事業部に置く。
(その他)
第7条 この規約に定めるもののほか、検討会の運営に必要な事項は、検討会において定めるものとする。
2.この規約改正については、検討会において定めるものとする。
附則
(施行期間)
この規約は、平成25年1月10日から施行する。
役職 | 氏名 | 所属等 | 専門等 |
委員 | 鎌田敏郎 | 大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻 教授 | 橋梁 |
委員 | 小山弘道 | 鵜殿ヨシ原研究所 所長 | 鵜殿保全 |
委員 | 中瀬勲 | 兵庫県立大学 教授 兵庫県立人と自然の博物館 副館長 | 自然科学 |
委員 | 西垣誠 | 岡山大学大学院 環境生命科学研究科 資源循環学専攻 教授 | 地下水 |
委員 | 布谷知夫 | 三重県立博物館 館長 | 植物学 |
オブザーバー | 宮内庁式部職楽部 | ||
オブザーバー | 国土交通省近畿地方整備局 淀川河川事務所 | ||
オブザーバー | 高槻市 産業環境部 | ||
オブザーバー | 鵜殿のヨシ原保存会 | ||
オブザーバー | 上牧実行組合 | ||
オブザーバー | 東儀秀樹 | 雅楽師 皇阜館大学特別招鴎教授 | |
事務局 | 西日本高速道路株式会社 関西支社 建設事業部 |
こちらは会場で配布された資料の一部です。
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然し、高速道路のこのコースだと、八幡から箕面の間で少なくとも大きな活断層を二つまたぎますから、大地震の時には役に立たないかも。